M&Aについて

我々税理士は非上場の中手企業が「事業承継について最も身近な相談相手」(2018年東京商工会議所公表)や「事業売却について相談しやすい相手」(中小企業白書2006年版)となっているように、よき相談相手として、関与先に対する深い理解と事業売却に関連した専門知識を有している専門家としてM & Aをリードしていく役割を担っていく必要があると考えます。

税理士にとって売り手、買い手に対して幅広い業務提供の機会があります。 M & A 業務に対する対応力が事務所の成長力を左右する時代であると言っても過言ではありません。

M & A のプロセス  

買い手と売り手ともになぜM & Aをするのかといった戦略の立案から始まり 、相手の探索、基本条件の合意、デューデリジェンスの実施を経て、条件交渉、契約締結へと進んでいきます。  それでは具体的に見ていきます。

1、 M & A 戦略の立案 

買い手の立場からは、どのような目的で、どのような会社を、どの程度の予算で購入したいかの段階です。明確に M & A の目的を決めておく必要があります。

売り手の立場からは なぜ売るのかという明確な理由を考えておく必要があります。  

M & Aは交渉でもあるため全ての条件が全ての点で希望通りに認められるとは限りません。  

M & Aにおいて譲れない条件や最低売却価格等も明確にしておくことが必要です。  

買い手、売り手何の立場においてもM & Aを検討するにあたって、きちんと目的等を明確にすることが不本意なM & Aを避けるために重要です。  

2、ターゲットの選定  

一般に M & A はファイナンシャルアドバイザーや仲介会社を通じて相手方を探索します。  

検討の初期段階では、売り手の情報は機密性が高いことからノンネームシートという匿名化された案件情報としてとりまとめられ、買い手候補の探索が行われます。  

買い手も、このノンネームシートを基に買収対象企業を絞り込んでいきます。  

ある程度対象が絞り込まれた後に機密保持契約が締結され、企業概要やその他の企業情報が開示されます。

3、初期交渉、プレデューデリジェンス、予備的価値評価  

買い手は、限られた情報から相手の情報を分析し、提示する条件や価格等を検討します。 

この段階で売り手と買い手は接触し、双方の理解を深めて行きます。

4、基本合意、意向表明  

買い手と売り手の条件が概ねまとまった段階で、売り手は交渉を進める相手を一社に絞り  

買い手との間で合意した主要条件を明記した基本合意書を締結することが一般的です。  

基本合意書には買収価格の他、待遇や独占交渉権等多岐にわたった事項が記載されます。  

基本合意書は買い手と売り手との間で形成された合意事項を双方に確認する性質を有します。  

5、デューデリジェンスの実施  

基本合意された事項に基づき、買い手は売り手に対してより詳細な調査を行うフェーズに入ります。この買収のための詳細な調査は、デューデリジェンスと呼ばれます。  

このデューデリジェンスは買い手が直接行うこともありますし税理士などの専門家に委託することもあります。  

デューデリジェンスの範囲は、財務、税務、法務、労務といったように多岐にわたり、買い手は案件の概要や規模、予算等によってその範囲や委託内容を決定いたします。  

この間、売り手には様々な資料の要求や質問がなされるため、相当程度の負荷がかかります。仮に意図的に虚偽の説明や隠蔽した場合には、買収が成立しても後々問題となる可能性があるため売り手は、買い手からの要望に真摯に対応していくことが重要です。

6、条件交渉  

デューデリジェンスの結果や事業計画の検証結果、その他の諸事情を踏まえ最終契約に向けた交渉が行われます。  

この交渉の過程では 、買収価格の調整の他、対価の支払方法や従業員の処遇の決定、株式譲渡契約へのデューデリジェンス等の過程で検出されたリスクに対する売り手による表明保証条項の織り込みの検討が求められることもあります。

7、契約締結・クロージング

詳細な契約条件が固まったら合意された条件に基づく最終契約になります。  

契約書案を売り手及び買い手の双方で確認し、契約日や必要書類等の準備を進めます。  

契約の準備が整ったら正式契約の調印となります。  

契約書への調印から決済までの流れをクロージングといいます。  

8、統合段階  

M & A は買収契約の成立がスタートとなり、新たな契約体制の下でのスタートが切られるものです。買い手は、買収した日以降対象会社の新たな経営者としてグループと一体となって経営を行い、M & A 戦略の立案で期待した効果を発揮できるよう取り組むことになります。